デス・オーバチュア
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闇の中に生まれる輝くもの、それが光。 光から生まれる闇、それが影。 闇から光が生まれ、光からもまた闇が生まれる。 どちらが主なのか、親なのか……。 光と闇は対立するものでありながら、同時に強く惹かれ合いもする。 光と闇、善と悪の二元論……最大の敵でありながら、最愛の恋人のように、互いが不可欠な存在なのだ……。 茶髪のストレートロングに赤い瞳をした、スラリとした長身の女性『紫月久遠』は、ハーティアの森を最奥目指して一人歩いていた。 天魔族の少女『瑠璃』に拾われるような形で『中』へ招き入れられてから、数日が経過している。 フローライトとかいうエルフの少女は明らかに歓迎していないどころか、すぐにでも『外』に叩き出したかったようだが、瑠璃には逆らえないというか、甘いようで、不承不承ながら久遠の滞在を認めたのだった。 「ここね……瘴気の発生源は……」 久遠は目的地に到着し足を止める。 其処にあったのは巨大な墓標だった。 黒い不思議な輝きを放つ宝石のような石柱が大地にそびえ立っている。 「……毒?……重?……年号?……今から約四千年前……」 石柱に刻まれている文字はエルフ語なのか、久遠にも殆ど読めなかった。 「エルフ語は流石に馴染みが薄いのよね……それにアナグラム?……いや、単純に字が汚いだけかしら……あら?」 久遠は石柱……墓石を動かしたような跡が大地に残っていることに気づく。 「ふむ……」 久遠は墓石に右手をあてると、軽く押してみた。 だが、墓石は微動だにしない。 さらに強く力を込めてみるが、やはり墓石は動かなかった。 「なるほど、人間の腕力では無理か……ふっ!」 紫黒の閃光が一瞬だけ久遠の姿を覆い隠す。 閃光が晴れた時には、墓石が後ろにズラされ、底が見えない地下への階段が姿を現していた。 其処は地の底、一条の光明すらささない闇の牢獄だった。 「これはまた……」 久遠の赤い瞳が妖しく光る。 彼女の赤く輝く瞳は、この暗闇の中を完全に見通すことができた。 「大層な……まるで魔王でも封じるかのような厳重さね……」 部屋中に描かれた魔法陣や魔法円のような奇妙な文字と模様の羅列。 さらに、立体的な蜘蛛の巣のように部屋中に無数の鎖が張り巡らされていた。 これらの『封印』と『拘束』は、たった一人の存在のためのものである。 目も口も封じられ、拘束帯と枷の完全拘束な上に、さらに石壁に繋がっている鎖で何重にもグルグル巻きにされた『彼女』は、死んでいるかのように静かだった。 「これだけの拘束と封印をかけてもまだ完全に封じきれていない……なんて強い毒気、瘴毒……」 常人ならここまで辿り着く前に、熱病に冒され死に至るだろう。 それ程までに強烈な毒気と瘴毒……『瘴気』を放ち続けていた。 「この子が完全に解放されればおそらく……一時間もしないうちにハーティアの森は内側から朽ち果てるでしょうね……」 ハーティアの森は、全ての生き物は死に絶え、草木も全て枯れ果てて、死の森と化すだろう。 ただ存在するだけで彼女にはそれが可能だということが、久遠には容易く推測……いや確信できた。 「そして、これだけの瘴気を持つ存在である以上……彼女自身の魔力や戦闘力……『力』もまともじゃない……くっ!」 久遠は右手を左手でおさえると、痛みを堪えるように顔を歪める。 「……私よりこの子の方が……貴方の使い手に相応しい……とでも言いたいの、四暗刻(スーアンコウ)……?」 久遠は、闇の牢獄に封じられているエルフの少女を睨みつけた。 背よりも長い髪は烏羽色(からすばいろ)。 まさに烏の羽のような、つやのある黒色……真っ黒で青みのあるつややかな髪、この世でもっとも美しい黒髪だった。 肌は生まれてから一度も日の光を浴びたことがないかのような、病的なまでの白さをしている。 身に纏っているのは、白いエプロンの無いメイド服というか……黒い無地のワンピースのような洋服一枚だけだった。 「……解ったわ。それなら……影嚮(ようごう)!」 久遠の『影』が不自然に伸び、拡がり、蠢き出す。 そう、光の存在しないこの暗闇の中にありながらも、久遠の背後には、夜目の効かない人間でもはっきりと見える程の……暗闇の黒とは濃さの違う黒い『影』が存在していた。 蠢いていた『影』が影法師……人の形を成して『浮かび上がって』いく。 フード付きのローブのような布切れを被った立体(三次元)の影法師……影王シェイドが久遠の背後に、君主に『影従』するように控えていた。 「闇の虐殺者(ダークスローター)!」 久遠の声を合図に、シェイドの背中から生えた千の影手(えいしゅ)が、壁の魔法陣のような文字を片っ端から剔り取っていく。 壁、天井、床の全ての文字と模様が剔り取られるまでに大して時間はかからなかった。 「次は鎖を……うっ!?」 影手を鎖に向けようとした瞬間、石牢に充満する瘴気の濃度が数百倍に高まった。 瘴気のあまりの強烈さに、人間とは違い瘴気を好む種族である久遠ですら、一瞬吐き気を覚える。 「くっ!?」 それは一瞬の出来事、石牢中の全ての鎖が、まったく同時に何かに切断され、飛び散ったのだ。 同時に、シェイドは姿を消し、久遠がアンブレラに変身している。 「今のは何?……反射的にこの姿に戻らなければ、斬り飛ばされていたわね……」 鎖を断ち切った『刃』らしきモノは、久遠もまた斬り捨てようとしたのだった。 『人間』の姿のままだったら、即死間違いなしの攻撃。 力の正体は正確には見極められなかったが、その強さ、恐怖だけはしっかりと感じ取ることができた。 『……う……ううっ……うああああああああああああああああああああ! あああああああああああああああっ!』 何かが破れ、砕かれ音との直後、言葉になっていない絶叫と共に石牢が激しく震撼する。 「つっ……」 久遠改めアンブレラは、絶叫と振動の発生源を確認した。 発生源はアンブレラの予想通り、先程まで石牢中から伸びた鎖で拘束されていた黒髪のエルフである。 黒髪のエルフは、手枷や足枷や拘束帯を引きちぎり、口封じを噛み砕き、咆吼とも悲鳴ともつかない声をあげ続けていた。 「封印の魔法陣や魔法円さえ消してくれれば……後は自力でどうとでもなったわけね……」 おそらく、封印が消えて『魔力』が使えるようになった彼女は、その魔力を使って拘束の鎖を全て瞬時に断ち切ったのだろう。 そして、『腕力』で力ずくで枷と拘束帯を引きちぎったと思われた。 黒髪のエルフは、アンブレラの推測の正解を証明するかのように、金属製のアイマスクに両手をかけると、力ずくで一気に引きちぎる。 まるで薄紙か何かのように、本当に容易く破って見せたのだ。 「血色の瞳……ありきたりね……でも……」 黒髪のエルフは、血のように赤い瞳を爛々と光らせている。 「貴方にはよく似合っているわね……」 瞳の血のような赤さが、禍々しさが、彼女の狂気を象徴しているかのように、アンブレラには思えた。 やがて、黒髪のエルフの絶叫が途切れ、石牢の振動もおさまる。 「…………」 黒髪のエルフは静止し、さっきまでとは打って変った静寂が石牢を支配した。 「ふむ……」 アンブレラは警戒は解かずに、ゆっくりと黒髪のエルフに近づいていく。 「……んぁぁっ!」 「つぅ!?」 黒髪のエルフが微かに喘(あえ)いだ瞬間、床から黒い刃が跳ねて、アンブレラが咄嗟に張ったエナジーバリアさえ切り裂いて、彼女の右肩を深く切り捨てた。 「っ……私と同じように影を……闇を操った?……いいえ、違う……これは闇というより……」 「ああぁっ!」 再度の喘ぎ声と共に、黒い刃が地を跳ねる。 アンブレラは直前に横に跳んで、なんとかその黒い刃をかわした。 「……やはり……飛ばしているのは『水』ね……黒い水……」 アンブレラは二度目の攻撃で、力の正体をより正確に見抜く。 闇や影や風等にしては柔軟性というか、跳ね具合が少し違うと思ったのだ。 案の定、見た目は闇や影のようだが、その性質は明らかに水(液体)である。 「うっ……傷が癒えない、それに傷口から物凄い速さで体が腐っていくような感覚……この水は……暗黒水!?」 暗黒水とは、アンブレラの持つ魔皇剣・四暗刻の力の一つでもある魔界の水……魔界の四大元素(精霊)の一つを召還した力だった。 「エルフごときが暗黒水を操るなどありえない……くぅ……しかし、この力は間違いなく……とにかくこの水を浴びるのは拙い……」 アンブレラは右肩をおさえながら、一旦黒髪のエルフから距離をとろうとする。 「あ……あ……うく……んぁぁぁっ!!!」 叫びと同時に、黒髪のエルフを中心に全方位に黒い大波が放たれた。 「つっ……」 狭い石牢内に逃げ場は無く、アンブレラの姿はあっさりと黒い大波に呑み込まれてしまう。 アンブレラを呑み込んだ黒い大波はしばらくすると荒れがおさまり、石牢の床は、静かに揺らぐ黒い海と化した。 黒髪のエルフはその黒い海の中心に一人立ち尽くしている。 「…………」 彼女にはアンブレラと戦っている自覚も無ければ、アンブレラの存在にすら気づいてもいなかった。 ただ、無尽蔵に噴き出してくる瘴気と同じように、体の内側に抑えておけなかった『力』を、体の疼きのままに放出しただけに過ぎない。 瘴気の放出は、彼女にとって人間でいう所の『呼吸』のような無自覚な行為だった。 黒い水の波立ちは、彼女の体の疼きと、感情の揺らぎに過ぎない。 この二つの力(行為)は……彼女自身にも完全に抑えることが、止めることができないものだった。 「…………」 黒髪のエルフは、熱に冒されたような表情で、荒い呼吸を整えている。 『……なるほど、まったく制御ができていないわね……はあっ!』 揺らぐ黒い海の中から、噴火のような勢いで黒い火柱が立ち登った。 「……『力』に肉体どころか自我すら冒(犯)されているのね……当然ね、その『力』はエルフごときの肉体と精神で御せるモノじゃない……」 石牢の床を埋め尽くしていた黒い海が、半分『蒸発』して消え去っていた。 床の残り半分は、黒い炎が荒れ狂う『炎獄(炎の地獄)』と化して、黒い水の侵入を阻み続けている。 石牢の領地は綺麗に半分ずつ、黒い海と黒い炎獄に分断されていた。 黒い海の支配者は、黒髪のエルフ。 そして、黒い炎獄の支配者は、大地に魔皇剣・四暗刻を突き立てた、アンブレラだった。 四暗刻の刃は常に黒炎を噴き出し続けており、刀身には赤い模様が走っている。 「う……ん……ぅぅ……くぅ……あああぁっ!」 黒髪のエルフが声をあげた瞬間、黒い海の中から、彼女を一呑みにできる程の巨大な大蛇が姿を現した。 「水龍?……いや、水蛇……『蛟(みずち)』ね……暗黒の水精の具現化……」 「んくっ……ああ……ぁぁ……」 「まあ、一匹ぐらいなら暗黒炎の一薙ぎで……」 「あああああああぁぁっ!」 黒い海の中から、次々に黒い蛟が首を出す。 「二、四、八……九……まるでヒュドラね……まあ、首の数が千とか一万って説を採用しないでくれただけマシだけど……」 最終的に蛟の首は九つになって、黒髪のエルフを守るように取り巻いていた。 ちなみに、アンブレラが口にしたヒュドラとは、とある世界のある国の神話に出てくる化物の名である。 一般的に首の数が九つ、説によっては一万の首を持つとも言われる水蛇の化物だ。 「うっく……ああ……」 九つの蛟が一斉にアンブレラの方を睨むようにして鎌首をもたげる。 「やっと治ってきたというのに……」 アンブレラは、床に突き刺していた四暗刻を右手で勢いよく引き抜いた。 「魔皇……」 引き抜いた四暗刻の剣先を黒髪のエルフへと向ける。 アンブレラの背中から、冥く輝く紫黒の光輝の翼が生えると、激しく羽ばたき、周囲に無数の光羽を美しく舞い散らせた。 「ああ……あぁぁっ……ううぅ……ああっ!」 黒髪のエルフの呼吸が荒く、早くなっていく。 「暗黒……」 「ああっ……ん……んくっ!……ああぁ……」 アンブレラの周囲に無数の黒い火柱が立ち登り、四暗刻が噴き出す黒炎がその激しさを際限なく増していった。 「……んああああああああああああぁぁっ!!!」 黒髪のエルフの絶頂の声と共に、九つの蛟が一切にアンブレラに襲いかかる。 「炎獄翔(えんごくしょう)!!!」 石牢を埋め尽くす程に巨大な黒炎の不死鳥が出現すると、九つの蛟も黒髪のエルフも全て呑み込み天へと飛翔した。 「約四千年前、ルーヴェ帝国皇帝の大虐殺から辛うじて逃げ延びたウィゼライトは強い『力』を望んだ……」 黒のスウェットジップアップパーカ(フードつきのゆったりしたジャケット)にスパッツ、黒のスニーカーにアンクルソックスといった、スポーティー(軽快で活動的)なファッションのちっちゃい女の子は姿を現すなり語りだした。 「でも、その『力』は決して手を出してはいけない禁断の力だった。大切な仲間も、愛する森も何もかも朽ち果てさせる腐蝕の瘴気を呼吸のように吐き出し……彼女の体の疼きと感情の乱れのままに、全てを呑み尽くす暗黒の水は荒れ狂う……彼女は放っておけば世界すら滅ぼしかねない災厄(カラミティ)と化した……」 「…………」 アンブレラは無言で女の子……瑠璃の話に耳を傾ける。 「そして、ウィゼライトは姉であるフローライトの手でこのハーティアの森の地下深くへと封印された……で、今に至るの」 「……なるほど……どうやら全ては貴方の思惑通りになったみたいね……」 アンブレラの立っている場所の隣には、底が見えない深い巨大な大穴があった。 その大穴こそ、ウィゼライトの墓標が立っていた場所である。 アンブレラが放った黒炎の不死鳥は、一気に地上まで飛翔し、墓標を跡形もなく蒸発させながら、天へと登るようにして消えていった。 「瑠璃は、ウィゼライトを外に出してあげたかっただけだよ」 「貴方の力でも墓標は動かせたし、封印の魔法陣や拘束の鎖も破壊できたでしょうに……」 ウィゼライトの墓標は人間や、人間よりもさらに脆弱なエルフの腕力では動かせない。 だとすれば、墓標を動かして此処に出入りしていたのは、『天魔族』である瑠璃以外に考えられなかった。 「あ、それは無理」 「無理?」 「というか駄目。ウィゼライトを解放するのは彼女より強い者でなくちゃ……彼女を御せる……『飼える』ぐらいの器のある人物じゃないとね」 瑠璃はクスリと悪戯っぽく笑う。 「…………」 「瑠璃はウィゼライトよりはちょっとだけ弱いし、この森から離れられない……甲斐性なしだから彼女を飼う……養うことはできないの……」 そう言う瑠璃の表情は笑顔のままだが、なぜか少し悲しそうに見えた。 「甲斐性なし……確かに、天魔族は外の世界では自分の身を守る、隠すのさえ大変な種族……とても他人の面倒を見る余裕はないでしょうね」 天魔族は決して弱くはない。 現代の天使達とは比べ者にならない程の強さだった古代の天使……戦天使に匹敵する戦闘力を有するのだ。 だが、天魔族は自身の存在の貴重さ、特に額の宝石の希少価値により、狩ろうとする者……『敵』が多いのである。 額の宝石は純粋に宝石としての希少価値だけではなく、天魔族の生命の『核』であり『力』の源……要するに、その宝石を手に入れれば天魔族の『力』を全て得ることができるのだ。 天魔族の『力』……強さはどれだけ低く見積もっても魔族で言えば高位高級……つまり最高位の魔族に匹敵する。 もっとも、魔族の高位高級という階級は魔王から、その側近の少数の魔族までと、ピンキリが激しい階級だった。 つまり、何が凄いかと言うと、天魔族の宝石さえ手に入れれば、人間だろうが犬猫だろが、高位魔族並の魔力や戦闘力を得られるということである。 ゆえに、天魔族の宝石を求める者は種族問わずあとを絶たなかった。 元々、異界竜と古代神族の戦争後、生き残った天魔族は極々僅かだったが、宝石や天魔族自体を目的とした狩猟が無ければ、全滅する事はなかっただろう。 「瑠璃は絶滅しているはずの種族だからね……レアなんてレベルじゃ済まないよ……」 「……で、この子の面倒を私に押しつけると……?」 アンブレラは自分の足下で失神している黒髪のエルフ……ウィゼライトに視線を向けた。 「うん! お願いできる?」 「……その前に聞いておきたいのだけど……私が彼女を殺してしまう可能性は考えなかったのかしら? というより……」 アンブレラは自分の右腕に視線を移す。 肘から指先までが、火傷どころか炭化していた。 アンブレラが左手で軽く右手を叩くと、炭化した右手は砕け散り、右腕の肘から先が消滅してしまう。 「……右手を文字通り犠牲にしても……焼き尽くせなかったのは結構屈辱だったのよ……」 手加減などしたつもりもなければ、することなどできるわけがなかった。 ウィゼライトの九つの蛟による攻撃は、普通に暗黒炎の火球を一発撃ちだしたぐらいでは迎撃できなかっただろう。 だからこそ、まだまだ未完成の大技である炎獄翔を使わざるえなかったのだ。 「ああ、それは大丈夫だと……完殺される程ウィゼライトは弱くないと思ったの……多分……」 「……多分……」 ウィゼライトとアンブレラの実力を見抜いて、その実力差を計算したのだろうが、かなりいい加減というかアバウトな気がする。 「……まあ、そんなこんなで……ウィゼライトを貰ってくれる……よね?」 瑠璃は、おねだりでもするように、アンブレラの顔色を上目遣いでうかがった。 「……フッ、そんな目で見られたら大抵の殿方は一殺(いちころ)でしょうね……」 「……駄目なの?」 「……まあいい……貴方の思惑に乗ってあげるわ」 アンブレラが足下に左手をかざすと、ウィゼライトが独りでにふわふわと浮かび上がる。 「ありがとう、お姉様~♪」 瑠璃は子供らしく無邪気に、アンブレラに抱きつく。 「誰がお姉様よ……超古代生物……私より年上……」 「あ、それは多分違うと思うよ。瑠璃は当時……異界竜戦争の時から生きていた天魔族じゃないから……古代魔族である光喰いのお姉様から見たら全然子供だよ、きっと」 瑠璃は無邪気な笑顔でそう言うと、アンブレラから離れた。 「貴方……」 アンブレラは瑠璃に不審の眼差しを向ける。 「何、お姉様? そろそろ行かないとフローライト達が駆けつけてくるよ」 「魔王石を使って、気配も波動も全てを完全に人間に作り替えていたのに……一体、貴方はどこまで見抜いているの……?」 「ああ、凄いね、あの赤い石、魔王だろうが魔皇だろうがただの人間にしか見えない、感じ取れないように作り替えれるんだもんね」 「……天魔族というのは気味が悪い程に何でもお見通しなようね……怖いからこれ以上は何も聞かないでおくわ……」 「うん、それがいいと思うよ。瑠璃も、それを知られたからには生かしておけぬ!……とか言われたら困るもん」 「ふん……じゃあ、この子は一応預かっていくわね。貰い手が見つかるまでは一応面倒みてあげるわ……」 「あれ、自分の物にしないの?」 「……私はいつも一人よ……下僕も友人も恋人も何もいらない……」 「ああ、そうだったね、流石はたった一人で四……んぐっと」 瑠璃は慌てて自分の口を両手で塞いだ。 「……まあいいわ……聞かなかったことにしてあげる……」 アンブレラは疲れたような、呆れ果てたような表情で苦笑する。 「うん、ありがとう……大丈夫だよ、瑠璃は他人を見透かすのは好きだけど、お喋りではいから……どっちかというと秘密主義?」 「……ふう、貴方を飼うことに比べれば、この子の方がまだ飼うの楽そうね……」 「あははーっ、じゃあね、キリがないから、もう瑠璃の方から消えるよ……ばいばい~」 瑠璃は踵を返し、森の中へと消えていった。 一人取り残されたアンブレラは、深く溜息を吐く。 「……あれほど根っこの見えない子は久しぶりに見たわ……」 アンブレラは、浮遊するウィゼライトを残った左腕で抱き寄せると、紫黒の光翼を羽ばたかせて、空へと飛び立った。 一言感想板 一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。 |